呉服 わかさや
和服と広島を繋ぎながら
中心地から
絶対的文化を支える
株式会社 呉服わかさや
代表取締役
三代目 若狭 利康
昭和三十一年生
広島パルコ新館真向かいのビル二階。階段を上がると見えてくるのは、上品で、淡く優しい色合いの着物や帯。これぞ「わかさや」の世界観がぎゅっと詰まった空間に終始見惚れてしまうはず。店の起源は、現レストハウスである大正屋呉服店。市内中心部の地域力を高める活動も行う若狭社長、そして妻の道子さんの身ごなしは、まさに「粋」という言葉が似あう。
出発の地は、
平和のシンボル大正屋呉服店
ルーツは私の祖父になります。縁あって兵庫から広島に来た祖父は、「大正屋呉服店」に勤めました。現在は、平和記念公園内の被爆建物であるレストハウスとなっています。そこで丁稚から入った祖父ですが、もともとは兵庫県の実家が「わかさ屋」という名で呉服店を営んでいたようです。しかし戦時中の燃料統制令のため「大正屋呉服店」は閉店を余儀なくされます。その最後の昭和十八年まで、祖父は同店の支配人を務めていました。戦争が終わって一年後、昭和二十一年に祖父自ら「わかさや」を創業。ちょうど先日、実家を建て替えるために蔵を整理していたら、当時の「大正屋呉服店」の法被が出てきたんです。レストハウスがリニューアルしたタイミングで寄贈。現在館内に飾ってあります。
走り抜けられるのも、
妻の支えあってこそ
私が家業を継いだのは、昭和五十三年。呉服店の後継ぎは、大抵京都方面に修業に出る場合が多いのですが、私は大学を出てすぐ家に入りました。継ぐのは当たり前だと思っていましたね。そのつもりで、関西学院大学の商学部に入学。妻の道子とは、平成二年に結婚。かみさんが商売を支えてくれたと言っても過言でないかもしれません。私の役割は仕入れ、そして経営と…、朝の掃除…(笑)。呉服屋には必ず女性が必要です。女性のことは女性にしかわからないことがあります。かみさんがいないと生きていけないですね(笑)。
上品かつ優美、
唯一無二のわかさやの色
当店の呉服のほとんどは、京都から仕入れています。選りすぐった本当に良いものを、自分の目で選んで、お客様に適正な値段で提供する。これは祖父の代からの教えです。お客様の意向に沿って下絵を描いて、一から着物を作ることもあります。目利きを鍛えるため親父について京都に行き、理解するまで五年、自分一人で仕入れるのに十年かかりました。だから最初は失敗もありましたね(笑)。そして、当店の好みというものがあります。あまり奇をてらったものではなく、ギラギラしていないもの。流行に左右されない古典柄です。何百反もある中で、自分の店好みの品を探し出すのは、並大抵のものじゃありません。お客様に損をさせないために、お客様の代わりにいいものを選ぶのが私の使命です。
着物とは、
揺るがない絶対的な日本の文化
学生の時、洋服屋でアルバイトをしていたのですが、洋服と和服の違いで最初に驚いたのは、和服が持つ色の豊富さ。着物には、何億色という微妙な色の違いがあるんです。その中から、当店の色を見つけ出し、お客様におすすめし、色を合わせる。このプロセスが大変楽しい。加えて着物というのは、柄と柄とのぶつかりあいです。着物に柄、帯に柄がそれぞれある。そして色がある。それらを組み合わせてコーディネートし、提案するのが呉服屋の仕事です。当店のセンスとお客様の好みをバランスよく考え、お話しながら決めていきます。着物を着れば背筋が伸びる、これは確かなこと。特にハレの席では、「よし、今日はやるぞ」と気分が引き締まると思いますよ。自信を持って、その場に出られる。日本の着物というのは、絶対的な文化ですから。
着物を継いで、
自分なりのサスティナブルを
着物の良いところは、仕立てかえれば、おばあ様のものをお孫さんが使えるなど、長く活用できること。洋服は流行があり長くは着られませんが、着物は状態さえよければ五十年以上前のものでも着られます。着物って、とてもサスティナブルなもの。古い習慣と思われがちですが、逆に今この時世にとても沿っている。着物を着たいけれど、季節や行事の時に何を着ればいいのかわからない。購入の目的ではなく、ただそういう疑問点を聞きに来ていただくだけでもいいんです。そのための呉服専門店ですから。
中心地からまちを変える、
地域プレイヤーとしても活躍
とうかさんの時期に合わせて開催される祭り「ゆかたできん祭」を、立ち上げから二十年間統轄しています。着物はもちろん、広島に浴衣の文化を残していかなくてはならないと思いスタート。中央通りを歩行者天国にし、ステージも実施。気軽に浴衣を着られるよう、大阪着物着付学院さんにボランティアをお願いし、無料の着付け所を設けました。着崩れした子、左前に着ている子にもさりげなく声をかけます。全ては街のためです。郊外に人の流れが集中し、市内中心部は厳しい状況が続いています。商店街というのは、皆が団結して、一緒に動いていかなければなりません。金座街だけでも、本通だけでもダメ。広くエリアで考えることが大切です。現在は、相生通りにおける次世代型まちづくりプロジェクト「カミハチキテル」の代表も務めています。街も人も企業も共同体で、デザインやビジョンを組む必要がある。街を活性化させ、地域の魅力を伝える。これも長年続く呉服店に生まれた身だからこそ、できる活動だと思っています。
呉服わかさや
〒730-0033
広島市中区堀川町五の九 二階
電話番号/082-247-1166
MAIL/
営業時間/十時三十分から十八時三十分
定休日/水曜