高橋呉服店
これぞ老舗呉服店の
底力着物が
生み出す広島の風景
株式会社 高橋呉服店
代表取締役
四代目 高橋 邦夫
昭和二十三年生
本通りのほぼ中央に店を構える「高橋呉服店」。原子爆弾の投下によって壊滅状態となった広島で、戦後再建し復興と共に歩んできた呉服の名店だ。四代目である高橋社長からこぼれる言葉は、全てが力強く勇ましい。そして周囲の空気までも変わる存在感と老舗の風格。着物が日常着だった時代にタイムスリップして、颯爽と広島の街に出ようではありませんか。
始まりは曾祖父、
大阪から広島の中心地へ
創業は、明治元年。曾祖父が廿日市の地御前から外商を始めたのが始まりです。元は大阪から尾道を経由し、海路で来たと聞いています。陸路より海路のほうが早い時代がありましたからね。地御前の地元の有力者のバックアップを得て、だんだんと東の方へ移動したようです。当時は、自動車もバスもありません。移動手段は徒歩のみ。初めて自身の店を作るわけですから、おそらく曾祖父は死を覚悟して家を出たと思いますよ。その後、明治二十六年に中島本町にて開業。時を経て大正十年、紙屋町にある旧住友信託銀行の場所に移転しました。現在の店舗は、昭和二十六年から現在まで変わらず、同じ場所に構えています。
原爆で壊滅した、
中心地からの復活
昭和二十年八月六日に原爆が落ち、広島の町は全て壊滅状態。最初に店を構えた中島本町、そして紙屋町は原爆が落とされる直前まで広島の中心街として栄え、映画館や商店街も数多かったエリアです。しかしあの日、全てが一瞬で無くなりました。私の父は、軍の将校としてフィリピンに出征。戦後の公職追放令により、広島に帰ってくるのが遅くなったため、店の再建は他の呉服店より遅れたそうです。復興途中の広島で、現在の場所に店舗兼住宅の店を再築。当時は着物を買うよりも、洗い屋さんが栄え、長蛇の列ができていたと聞いています。買うよりも、自分の古い着物を洗って仕立て変えるんです。着物を皆さんが買われるようになったのは、街が再生し始め、生活がだんだんと豊かになってからです。
自然の流れに任せて、
老舗呉服店の後継ぎに
私は昭和三十三年十一月に店に入りました。専修大学を卒業し、名古屋の呉服屋さんで三年間勤務の後、高橋呉服店に入社。父からは、「後を継ぎなさい」という類の言葉はなかったですね。自分から敢えて「後を継ぐんだ」という意識もなく、半ば当然という形でした。家の仕事は生活の一部。私は長男でしたので、この流れはとても自然でした。自然には逆らえないという言葉があります。まさにそのような人生ですね。昔は、最低でも三年は呉服の修業に出るのが当たり前の時代でした。しかし大変だったのは、広島に帰ってきてから。呉服屋に三年いたら、何でもできると思われがちですが、そんな簡単なものではありません。初めて入る丁稚とは違います。ストレスで胆石もできましたね。給料をもらうということは、それだけ売って稼がないとといけません。プレッシャーもありました。
誠実であること、
ただそれだけを胸に
代々続く店の理念は、誠実。非常にシンプルです。真っ直ぐに誠実に。誠をもって実を取る。当店だけでなく、どのお店も同じだと思います。そして明治、大正、昭和、平成、令和という、五つの時代に培われた理念との調和。長い時間をかけて成熟した誠実さと、各時代に起きていくことを調和させていく。つまり、時代に合わせて変化していくということです。人は騙せても、自分は騙せません。それができるかどうかで誠実か否かが決まると思うんですよ。それに自分は騙されてもいいけど、人は騙したくない。例えば掃除一つとっても、人が見ていなければ手抜きをする人もいます。しかし誰もいなくとも、いつもと同じように手を抜かずにやる。それら全て、誠実という言葉に繋がるのです。
和服が持つ、
直線という魅力
和服には「直線の魅力」があると考えています。着た感じも真っ直ぐ美しく、片付けるときも直線になるよう畳みます。持ち運びも簡単ですよね。和服の一番の魅力は、直線ラインの美しさです。加えて和服は、縫い直して使えます。着物には大まかに言うと、晴れ着と普段着という二種類に分けられますが、着物の場合は古くなった晴れ着を普段着に回せます。和服は日本の古風であります。二千七百年来伝統の袂の優しさ、長い裾のしとやかさ、腰の帯の線を隠す慎ましさ。つまり和服は、日本女性の象徴だと思うのです。
着物姿の人たちが溢れる街を、
もう一度
私には息子が二人。今後自然と店の流れは息子たちに移行していくのだと思います。二人とも店頭におりますので、任せていく方向ですね。毎日一緒に商売をやっているので、手取り足取りという雰囲気ではありません。相続とは、財産だけではないと思っています。経営者と喋ること自体が相続ですから。若い世代には、失いかけている日本の四季折々の風情を、着物を着用することによって伝えていきたい。住宅地、商店街、人が集まる場所が着物姿の人で溢れる光景を見てみたい。着物は、普段着でした。今現在は普段着としては着られていません。普段着の繁栄なくして、晴れ着なし。時間や手間もかかるでしょうけれど、ぜひお着物を着てください。
高橋呉服店
〒730-0035
広島市中区本通七の二十五
電話番号/082-247-0529
FAX/082-248-2539
営業時間/十時から十九時
定休日/水曜