かずもとや呉服店
三百年の歴史と伝統を
大切に広島の着物文化を
次世代へ
株式会社 数本屋
代表取締役
三代目 加藤 和行
昭和二十年生
江戸時代からの暖簾を受け継ぐ「かずもとや呉服店」。出迎えてくれるのは、朗らかな笑顔が眩しい加藤社長、そして会長である妻の孝子さん。現在は、中央通りのビル四階に店を構え、呉服はもちろんキュートでユニークな和小物にも力を入れる。伝統を残しつつ、新たな進化を遂げようとする三百年の歴史を持った老舗は、今また、着物を纏うおしゃれ心に火を灯す。
創業は江戸時代、
命がけで屋号を守る
現在の店名になったのは大正三年。江戸時代は屋号である「数本屋」で商売をしていました。しかし江戸期に広島の東側のほとんどが焼けたといわれる大火があったそうで、詳細資料が全て焼失。詳しい由来はわかりません。明治期になって「呉服・太物 加藤」という名で店を構えていたのですが、「屋号を大切にしたい」という思いから、江戸期の名前「かずもとや」を復活。先々代、つまり私の祖父母が生きた明治期には、お店は猿猴橋のたもとにありました。昭和四十七年に、新天地へ移転。堀川町へ来たのは平成二十六年です。
継承意識を変えたのは、
海外での体験
私は多くの兄弟の末っ子でした。家業を継ぐ気はなく、エンジニアになるために早稲田大学の理工学部に入学。しかし予想に反して、他の兄たちは別の道へ行ってしまった。つまり私は、仕方なく帰ってきたんですね。(笑)。大学二年生の頃から「広島に帰ってこい」と親から言われ、反抗した時期もあります。転機は大学三年の時に、海外へ行ったこと。早稲田大学の学生代表団の一人として、ヨーロッパへ一ヵ月間滞在する機会がありました。各国を周り、あらゆる美術館などを訪れました。ケンブリッジ大学などの姉妹校の学生とも交流しました。海外文化に触れるうち、日本の文化である和服の魅力を改めて意識。日本の伝統を守ることがいかに大切なことかと気が付いたのです。そこで店を継ごうと、はっきりと決意しましたね。「かずもとや」には、いくつかの家訓があります。その中でもお袋がいつも言っていた「商いは商売に惚れ、商品に惚れ、女房に惚れる。三惚れが基本」。この言葉を掲げて、妻の孝子と一緒に頑張ってきました。
夫婦二人三脚で、
覚悟を決めてがむしゃらに
呉服屋に嫁いできた身の私としては、「数本屋の暖簾を守っていかなくては」という使命感を感じていました。二人でお店に立つのは大前提。社長は経営を。私は、子どもを育てながら販売を。お互いを補い合いながら協力してきました。やはり夫婦が支えあうのが一番ですからね。暖簾を守るのは、そう簡単なことではありません。とにかく覚悟を決めました。がむしゃらでしたね。着物は日本の民族衣装であり文化です。「継承していくこと」私たち呉服屋にはその使命があると思っています。一度失くしてしまったものを、また復活させることは容易ではありません。それに、着物を着ると別の自分が発見できると思いますよ。お洋服とはまた違う魅力があります。忙しい現代だからこそ、時には着物を着てお茶を飲んだり、お食事に行ったりなど、ゆったりとした時間を持たれることが大切だと思います。
着物と歴史、
そして人が紡ぐ厚い信頼
当店のお客様は親子三代で来ていただく方も多いんです。ある日、お客様が、蔵に残してあった戦前の古い包装紙を持ってきてくださいました。他にも、戦前の風呂敷、通い帳、暑中見舞い状など、大切に保管してくださっていたものを、娘さんやお孫さんが持ってきてくださる。それだけ深い繋がりを持てるのは、とてもありがたいことです。最近は、おばあ様やお母様の着物を仕立てかえて、お嬢様のために縫いかえたいと言われるお話が多いですね。呉服屋は敷居が高いと思われがちですが、ぜひお気軽にご相談なさってください。お母様の着物を着たいと思う娘さんも多くいらっしゃいます。ご家族もきっと喜ばれますよ。
挑戦を忘れずに、
守り、受け継ぐ四代目
新たな試みとして、お客様の好みの着物の色柄や帯を作る「創作着物」をご提案しています。例えば、「好きな着物の柄に、同じ柄の帯を合わせたい…」そのようなご要望にもお応えしています。メディアにもご協力をさせていただき、広島を舞台にした映画『愚か者のブルース』(監督 横山雄二)では、女優さんに衣装協力として着物をお貸ししました。RCCのテレビ番組『元就。』でも、衣装を提供させていただいております。店内の和小物は、息子のセレクトです。彼にはぜひ「かずもとや」の暖簾を守ってもらいたい。時代の流れに沿いながら、地元である広島に貢献し、色んなことにトライしてもらいたいですね。
広島から羽ばたく、
新しく温かい着物文化を
理想はね、普段から着物を着てもらいたいのが本音。ですが、現代はなかなか難しいですから、ここぞという時にはぜひ着物を着てもらいたい。加えて、還暦になると、男女とも着物をきて神社仏閣にお参りしようという習慣が根付けばいいと考えています。今、還暦を超えてから、着物を着たいという男性が増えてきているんです。若い時はがむしゃらに働いて忙しくしておられた方たちが、一段落すると着物に目を向けてくださるんですね。このような文化が広島に根付いて、さらに日本全国に広まったら嬉しいですね。
かずもとや呉服店
〒730-0033
広島市中区堀川町五の一 大内ビル四階
電話番号/082-247-5298
082-248-4054
FAX/082-247-3404
営業時間/十時から十八時三十分
定休日/水曜